“舞”からたどる、日中韓のからだ・こころ・たましい ーー「東アジア文化都市」事業参加報告

東アジア文化都市 メディア&インフルエンサーツアー TLAは日中韓三国協力事務所(TCS)主催の「東アジア文化都市 メディア&インフルエンサーツアー」に日本代表の組織として選出され、共同代表の神山かおりが4月19日から10日間にわたり日中韓の3都市を巡りました。 いにしえの祈りの軌跡をたどる 韓国・慶州市からはじまったこのツアーは日本の奈良市を経由し、中国・揚州市にて終わりを迎えました。姉妹都市として交流を続けているこの3都市は、いずれも東アジア社会の大事な土台となっている仏教と縁のある土地です。 日本に律宗を伝えた鑑真和上は、揚州から出発し12年の歳月をかけて、難破や失明など幾多の障害を乗り越えながら奈良に辿り着きました。慶州は新羅千年の都として仏教文化を開花させ、新羅時代の学者・崔致遠は揚州に赴いて活躍しました。 3カ国それぞれで訪れる仏教の寺院で共通して流れるゆったりとした時間に安らぎを感じ、漂うお香のもたらす静寂の音にどこか懐かしさを感じながら癒される体験の共有は、生活の隅々にまで通底した文化的なつながりを感じることのできる瞬間となりました。 「信・通・和」で築いてゆく日中韓の未来 揚州にて最終日の28日に開催された関連イベント「東アジア文化シンポジウム」では日中韓の大使、市長や研究者などの専門家が集まり地域の共生について話し合いました。北京大学の張頤武教授は、❶信(信用、情報伝達)、❷通(理解し合う、滞りが解ける)、❸和(重なり合う、調和)という漢字3文字を東アジア地域の核心概念として挙げ、これからの友好的な関係性の築き方を示唆。 論語にも記されている”和而不同”(むやみやたらに同調するのではなく、互いの違いを認めながら協力をしていくこと)を実践し、尊重していくことの大切さを確認しました。 シリーズ「日中韓のからだ・こころ・たましい」予告 日中韓からのメディア関係者やインターネット上で影響力をもつインフルエンサーによって構成された参加者は、それぞれのかたちで感じたことや見つけたものを発信します。  THE LEADS ASIAでは今回の歴訪を通じて浮き彫りとなった文化的共通項を基に、「東アジアのからだ・こころ・たましい」シリーズと題して、東アジアのルーツを持つ身体性を活かすコンテンポラリーダンスシーンに着目し独自のインタビューを実施。古より鍛錬されてきた、身体が魂やことばと繋がる実践としての「舞」を通じて、東アジア3カ国が持つ根源的なつながりを探ります。 国境や地域を超えて活躍する日中韓のコンテンポラリーダンサーや舞踏家、アートディレクターのコトバたちを、全4回にわたりお届けします。 フォトギャラリー 韓国・慶州市 日本・奈良市 中国・揚州市 Follow us THE LEADS ASIAは、「近くて遠い」アジア地域の国々にルーツを持つZ世代が繋がり、対話するきっかけと場所を提供することを目指して活動している団体です。FacebookやTwitter、インスタグラムなどでも発信しているので、ぜひチェックしてみてください。

コーヒー片手に、ほっこり、じっくり向き合う。「わたし」を主語に語り合える場所、カフェで感じる韓国と日本

2021年12月に早稲田ギャラリーにて開催された「カフェ・コーヒー・コリア Beyond the Border展」。”日常”を切り口にさまざまな韓国の姿を見つめることができた展示と、1月21日から原宿で開催される第二弾のイベント情報についての独占レポートをお届けします。

人が人の痛みを見つめ、祈るとき、そこに国境はあるのかーー三池炭坑を日韓のZ世代が歩いてみた②

記憶にある特定の意味づけがされるとき、その想いは誰のものを反映しているのかーー。 2015年に世界文化遺産に登録された”記憶の有形物”である福岡県南部・大牟田に位置する三池炭鉱を訪ね、普段問われることのない「歴史の意味づけ」を日韓のメンバーがひもときながら歩く、このシリーズ。 第一弾の記事では、巨大な資本主義国家へと舵を切ろうとしていた明治時代の日本において、囚人や植民地出身者など社会的に周縁化された人々が危険な労働に従事し国家の根幹産業を支えるという、現代にも連続する構図が明らかに。 今回は日本の外に目を向け、文化遺産登録をめぐり度々政治問題化される争点と、市民の協働が持つ可能性について、実際に市民の協力によって建てられた記念碑を巡る中で探ります。 「それぞれが見ている歴史」「一緒に見たい未来」をすり合わせていく 炭坑での仕事は危険な重労働であることに加え、主な労働力として囚人が多く動員されたことから偏見を持たれる職業でもあった(前回の記事参照)。産業が巨大化していくにつれて国内で供給できなくなった労働力を補うため、朝鮮、中国、そして第二次世界大戦以降は連合国軍の捕虜が動員されていった。 2015年の世界遺産登録の際に議論の的となったのは、この「強制労働」があったのか否か、という点。日本政府は公式に、東アジアの各地から「自らの意思に反して(against their will)」労働者が動員され、「強制的に労役(forced to work)」させられた事実があったことについては認めている。 しかし、2020年6月に公開された東京の産業遺産情報センターには、朝鮮人の強制労働を否定する内容の証言や資料が展示され、国内外から批判を浴びた。 ユネスコの国際記念物遺跡会議共同調査団は翌月の12日、産業革命遺産の紹介が朝鮮半島出身者の強制動員問題を事実上否定しているという内容の報告書を公開。センターの展示内容について「被害者側からの視点が欠けている」と指摘した。 一方、韓国・ソウルの植民地歴史博物館では7月16日から11月7日まで、韓国の民族問題研究所が日帝強制動員被害者支援財団と共催する展示会「被害者の声を記憶せよ!強制動員の歴史を展示せよ!」が開催される。 展示では国内初公開となる長崎の高島炭鉱、福岡県の三池炭鉱の強制動員被害者の証言映像のほか、帝国日本による植民地時代に強制動員された被害者19名の証言映像が公開されているという。 韓国の民族問題研究所は展示会の開幕に合わせて声明を出し、「強制労働の真実を明らかにするために努力してきた韓国と日本の市民は、世界遺産委員会が公開した勧告を支持し、歓迎の意を表する」としている。 「ファンクラブ」藤木さんと共に。垣間見えた、市民レベルの可能性 強制労働を巡って政治的に対立するこの問題も、結局は1人ひとりの人間が理不尽に苦しめられ、悩み、傷ついた記憶をどう扱うのかという問いに終始する。そこには、イデオロギーもハイレベルな外交の議論も必要ないはずだ。 では「強制労働」の非人道性は、記憶の遺産が残る地方の自治体や、住民たちなどの市民レベルではどう扱われているのか。 「NPO法人 大牟田・荒尾炭鉱のまちファンクラブ(略称:ファンクラブ)」の代表・藤木雄二さんが、大牟田の街に残るその手がかりを教えてくれた。 まず私たちが向かったのは大牟田市馬渡第一公園。 ここには、1997年に建立された朝鮮人強制連行碑がある。三井三池に強制連行された朝鮮人の一部が暮らしていた馬渡の施設の押し入れの中に書かれた文字が後の調査で発見され、のちに碑として利用されるに至ったのだという。 建立文に記されている内容は以下の通りだ。* 「第二次世界大戦中大牟田の三池炭鉱に朝鮮から数千名の朝鮮人が強制連行され過酷な労働を強いられた。そのうち約二百余名の朝鮮人が「馬渡社宅に」に収容されていた。 馬渡社宅の51棟の押入に彼らの望郷の念がこめられた壁書が1989年に訪れた強制連行の歴史を学ぶグループにより発見された。 戦時中とはいえ朝鮮人に多大な犠牲をもたらし、さらに犠牲者の痛みを思う時ふたたびこのような行為をくり返してはならない。 そこで、この地に「壁書」を復元することによって戦争の悲惨、平和の尊さを次の世代に語り継ぐため、この記念碑を建立するものである。  1997年2月 大牟田市 *この建物自体は現在すでに取り壊されているため、文字のみ大牟田市の石炭産業科学館に保管されている。 強制連行の非人道性を認めない日本政府。「同じ過ちを犯さない」と明確に誓い、平和を次世代に継承しようとする大牟田市。両者の姿勢の違いに驚かされた。 国家、権力、利害などが複雑に絡み合い、巨大化して人の顔をしていない主体ではなく、いまを生きる人たちの集まる「顔の見える場」としての地方自治体、市民のレベルだからこそできる、未来に向けた関係構築の余白部分が垣間見えたようにも感じる。 住職みずから、慰霊碑建立に奔走した 次に訪れたのは熊本県荒尾市の正法寺。1972年、三井三池での強制連行被害者を追悼する碑が二基建立された。一基は朝鮮人、もう一基は中国人を追悼するためのものだ。 正法寺に存在する朝鮮人追悼の碑は「不二之塔」と呼ばれ、過酷な労働の中で命を落としたすべての朝鮮人の慰霊とともに、冷戦後も断絶が続く南北朝鮮の統一への想いも込められている。 また「中国人殉難者慰霊碑」は殉難への哀悼に加えて、建てられた1972年にちなみ日中の国交回復に込める両国関係への期待も込められているという。 この建立に奔走したのが、正法寺の赤星住職だ。 赤星住職は、まだ中国と日本の国交が無い時期から塔の建立費を集めるために3年間にわたって托鉢を続け、自力で総額35万円を集めることに成功したと以前のインタビューで語っている。人々の供養の気持ちを集めることを一番に考え、あえて托鉢という形式をとったのだという。 ・参考:赤星住職へのインタビュー記事 みずから進んで困難を引き受けてきた住職だからこそ、一言一言の重さが胸に響く。 お話を聴きながら、こうして地域の人々の手によって過去への償い、そして未来への警鐘が確実に受け継がれていることに、とめどない感謝の想いが溢れてきた。 一部の人に任せっきりにするのではなく、もっと多くの人たちが協働していけるのではないだろうか… 「私たちはいかにこの歴史と向き合い、懸命な活動を受け継いでいくべきなのだろう」。地元の皆さんの活動に感銘を受けると同時に、今を生きる責任をひしひしと感じて、武者震いする時間となった。 「悲しみは国境を越える」史上最悪の日中関係の中で繋がった想い 宮浦石炭公園にも、日本中国友好協会が建立した追悼碑が建っている。 碑文によると三井三池炭鉱には2481名の中国人が連行され、そのうち635名が死亡したという。宮浦抗に至っては、54名中44名が無くなっており、労働環境の劣悪さが明白だ。 慰霊碑は比較的新しく、2013年に建立されたばかりだ。前年での2012年は領土問題など日中関係を刺激する出来事が重なり、二カ国関係は戦後最悪とも言われた年。 しかしあくまでそれは、国と国との話。日本と中国の人々の協力によってその時期にこの碑の建立がされたことに想いを馳せると、市民どうしの繋がりは政治に左右される必要がまったくないこと、そしてその可能性に改めて気づかされる。 皆の想いが詰まった碑だからこそ、かけがえのない意味が生まれた 最後に訪れたのは大牟田市の甘木公園。ここでは毎年慰霊祭が開催されている。 ・慰霊祭の参考記事はこちら 甘木公園には「徴用犠牲者慰霊塔」があり、韓国語で記された碑文もある。これは在日コリア大牟田の人々の呼びかけで大牟田市、3つの企業(三井石炭鉱業株式会社三池鉱業所、三井東圧化学株式会社大牟田工業所、電気化学工業株式会社大牟田工場)、そして市民が協力する形で1995年に建立された。 慰霊碑は今も朝鮮半島の方を向き、誇らしげに建っている。 今回私達は藤木さんのご協力のもと、この慰霊塔建立の立役者であり、在日コリア大牟田代表の禹判根(ウ・パングン)さんにお話をきくことができた。 徴用で連れてこられた仲間が炭坑で命を落としたという話を知人から聞いた経験をきっかけに、禹さんは慰霊碑の建立のために動き始めた。Continue reading “人が人の痛みを見つめ、祈るとき、そこに国境はあるのかーー三池炭坑を日韓のZ世代が歩いてみた②”

Deconstructing the Politicized Emotions–Local citizen’s cooperations for the “dark legacy” in East Asia

When a certain memory is given a historical meaning, a question remains; who are the ones creating this idea of memory “worthy of remembering” ? In this series, members from Japan and Korea visit the “tangible object of memories” in Miike Coal Mine in Omuta, situated in southern Fukuoka Prefecture, which was registered as aContinue reading “Deconstructing the Politicized Emotions–Local citizen’s cooperations for the “dark legacy” in East Asia”

暗黒の地下へ。過酷な労働環境が垣間見える、福岡の炭鉱「修羅坑」を訪ねてーー三池炭坑を日韓のZ世代が歩いてみた①

世界文化遺産登録・明治産業遺産は華々しい産業の歴史を讃える一方で、未だに苛酷な労働の暗い歴史や、近隣諸国との間で外交問題化した議論が交わされています。そんな福岡・三池炭鉱を日韓のメンバーが取材。見えてきたのは、社会で周縁化された人々が搾取され、資本主義を支える、現代にも続く構造でした。

黑土之下—窥探福冈万田坑煤矿的恶劣作业环境

虽然作为世界文化遗产和明治工业遗产,福冈三池炭矿因其壮观的工业历史而受到赞誉,但其背后有着一段残酷的剥削劳动的黑暗历史。随着其被周边国家反复讨论,已经发展成了日本与其邻国的外交问题。我们来自日本和韩国的成员们一同参观了三池炭矿,发现了一个延续至今的结构性问题。在这个特定的结构中,弱势的一方持续地受到剥削,资本主义不断滋长。

Into the dark underground. A glimpse into the harsh working environment of Fukuoka’s coal mine “Shura-ko”.

While the World Heritage Site and the Meiji Industrial Heritage are celebrated for their spectacular industrial history, there is still a dark history of harsh labour conditions and discussions that have become diplomatic issues with neighboring countries. Members from Japan and Korea visited the Miike Coal Mine in Fukuoka. What we found was a structure that continues to this day, where marginalized people are exploited to support capitalism.

암흑의 지하로. 후쿠오카의 탄광 “수라광”에서 가혹한 노동환경을 엿보다 ~ 연재: 한일의 Z세대가 함께 견학한 미이케 탄광 ~

2020년부터 COVID-19으로 인한 팬데믹 현상으로 인류는 일상 속 다양한 활동이 온라인을 중심으로 돌아가고 있다. The Leads Asia는 사람과 사람 사이에 “손으로 만질 수 없는” 기억이 증가하지만 이럴 때일수록 형상을 가진 것이 역사상 어떠한 기억으로 연결되는지를 재고하기위해서 2020년 11월부터 2021년 2월에 걸쳐서 워크숍 시리즈 “Conversation of Tangible Memories” (형태를 가진 기억의 대화)를 주최했다. 선조들이 역사 속으로Continue reading “암흑의 지하로. 후쿠오카의 탄광 “수라광”에서 가혹한 노동환경을 엿보다 ~ 연재: 한일의 Z세대가 함께 견학한 미이케 탄광 ~”

Beyond Nationalism, Examining Beauty Between and Across Cultures — Japan-Korea Relations Through Art”

graphic recording by Chan Wai As a part of “Conversation of Tangible Memories” series, “A Bird’s Eye View of Japan-Korea Relations Through Art” closed on a high note on January 29, 2021. Following on from the “When Urban Communication Meets Transnational Asia” and “Passing on History and Challenges in the 21st Century“, this third eventContinue reading “Beyond Nationalism, Examining Beauty Between and Across Cultures — Japan-Korea Relations Through Art””

ヒトの相互作用の中で移りゆく文化・芸術を、繋がりから見つめる。第3回ワークショップ「アートから見る次世代の日韓関係〜ナショナリズムの枠を超えて〜」

graphic recording by Chan Wai THE LEADS ASIAが2020/21冬期に開催しているワークショップシリーズ「Conversation of Tangible Memories (“有形”記憶の対話)」。 第一回のワークショップ「When Urban Communication Meets Transnational Asia」、第二回「21世紀における歴史の継承と挑戦」に引き続き、第三回目となる「アートから見る次世代の日韓関係〜ナショナリズムの枠を超えて〜」が、1月29日にZoomを介して開催されました。 ゲストスピーカーとして招かれたのは、スイス・チューリッヒ大学に位置する美術史研究所にて東アジア美術史を担当する、ハンス・ビャーネ・トムセン教授。 日本と韓国を中心にした約50名の参加者が世界中から集まり、美術史や現存のアート作品を通じて日韓関係をみたときに生まれる問題や、ナショナリズムの狭隘な枠を超えた、新しい二ヶ国関係を考えるきっかけになるお話を聞きました。 ハンス・ビャーネ・トムセン教授「アートから見る次世代の日韓関係〜ナショナリズムの枠を超えて〜」 トムセン教授のお話はまず、スイスにおける日本と韓国の美術作品、いわゆる”東洋美術”についてからスタートしました。 スイスは内陸に位置する国でありながら、中世においてはヨーロッパにおける「文化の中継地」として特別な意味や役割を持っていました。 そして限られた資源や文化的接触を補うためにスイスの人々は貿易にも積極的で、みずから外地へと赴くことも早期から文化として根づいていました。 トムセン教授が2007年に初めてスイスに来たとき、東アジア(日本、韓国、中国)の美術を展示する美術館はチューリッヒとジュネーブに2件ほどしか存在していませんでした。 しかし、国内の50以上の美術館における研究を通じて、実はこうした「東アジア美術」に分類されうる作品が数多く存在していることが明らかになったのです。 トムセン教授は作品の分類のされ方について「日本、中国、韓国のどれに属するかについてはまったく議論されず、何が何なのか分からないほどごちゃ混ぜに保存・分類されていた」と語ります。 背景には、これらの作品が東アジアへ渡ったスイス人たちによってもたらされ、地方の美術館へ寄付されたときに専門家がおらず、「Exotic East (未開の極東)」から来たという情報しか共有されなかったという事情がありました。 トムセン教授はこの「東アジアへ渡ったスイス人」について着目します。 日本・韓国に渡ったスイス人たち 横浜におけるシルク貿易 スイス人使者たちは、シルクの輸入や時計の輸出などさまざまな物の貿易のために日本を訪れていました。彼らはたいてい長期に渡って滞在し、実際に言葉や文化を学んだあと芸術作品を各地から集め、故郷スイスへと持ち帰りました。 当時のヨーロッパは度重なる伝染病や不幸によって養蚕がうまく行かず、代わりとなる養蚕方法や質の高いシルクの仕入れ先を探していました。そこでスイス人使者たちは上垣守国著「養蚕秘録」(1802年)を持ち帰り、1848年に出版されたフランス語版はヨーロッパ中に広まりました。そして日本製のシルクは高い評価を得て、”モノ”を介した強い繋がりが生まれました。 このように比較的小さな国土と限られた資源の中で貿易によって事業を成功させていったスイス人たち。しかし現地での活動には言葉や文化の違いをはじめ、さまざまな困難が伴うはずです。彼らは日本で実際にどのような暮らしを送っていたのでしょうか? 教授は1864年から約36年間にわたり日本に滞在したチャールズ・チーグラー(Charles Ziegler)の事例を用いて説明します。 チーグラーはまず、二人のスイス人を同僚として来日させました。しかし彼の会社の管理職はそれ以外はみな東アジア人で構成されていました。横浜以前に長い養蚕の歴史を持つ中国・広州から数名を配置したほか、英語を話し貿易についても豊富な知識を持つ中国人たちは、日本人と筆談で意思疎通ができるためにとても重宝された存在でした。 さまざまな国籍の人員からなる彼のチームは、ときに同席で夕食を囲んだり、またみなで各地へ旅行に行ったりと、フランクな関係性を保っていました。 このように、横浜における国際性の高さ、また多文化が共存する環境は当たり前のものとして存在していたのだと言います。 韓国に渡ったスイス人 トムソン教授が韓国におけるスイス人の軌跡として例にあげたのは、当時日本や韓国、中国で外交官としてキャリアを築いていたポール・リッター(Paul Ritter)。 この時期を境に、韓国美術や芸術作品のスイスへの流入が始まりました。2007年から行われた調査では、スイス国内の美術館に偏在する韓国美術の作品が新たに多く発見されました。 “在外秘宝”:アートがナショナリズムと結びつくとき スイスに偏在していた東アジアを起源とする美術品の数々は、島田修二郎編「在外秘宝:欧米収蔵日本絵画集成」(1969)にちなんで「在外秘宝プロジェクト」と名づけられた調査によって各地で”再発見”されました。 国外における”国の秘宝”の全貌を明らかにする取り組みは、日本以外にも韓国や中国で近年盛んになっている動きだと教授は語ります。その「国立美術」調査の特徴・目的としては、以下のようなものが挙げられます。 名品探し 失われた日本美術品の発見 在外美術品を日本国内での美術史とつなぐ 外国における文脈を無視した観点による研究 外国にある美術品を「故郷」である日本とつなぐ ですが、このような美術史における現代の枠組みでの「国立美術」確立に向けた取り組みには、危険性も伴うとトムセン教授は指摘します。 「5000年の歴史」の誇りに潜むワナ 東アジア地域の国々では英語だけでなくそれぞれの言語においても、「韓国・4000年の音楽史」「日本・焼き物4000年の歴史」「中国・4000年の書道史」などの表現が多く見受けられます。Continue reading “ヒトの相互作用の中で移りゆく文化・芸術を、繋がりから見つめる。第3回ワークショップ「アートから見る次世代の日韓関係〜ナショナリズムの枠を超えて〜」”

A Bird’s Eye View of Japan-Korea Relations through Art (January 29, 2021)

*한글 / English below 「アートをめぐる日韓関係の俯瞰図 ~ナショナリズムの枠を超えた東アジア芸術を通して見えてくる世界~」 THE LEADS ASIAは、「Conversation of Tangible Memories(”モノ”を通じた記憶の対話)」と題したワークショップシリーズを昨年11月から全4回にわたり開催しています。 第3回目となる1月29日のワークショップでは、令和元年に日本政府より旭日小綬章を受賞されましたスイス・チューリッヒ大学(東アジア芸術史学科長)のハンス・ビャーネ・トムセン教授をお招きして開催します。 古典から現代アートに至るまで、東アジアにおける陶芸や絵画などの芸術はときに、「日本芸術」「韓国芸術」「中国芸術」などの名前で明確に区別され、時に国粋主義(ナショナリズム)的に結びつけて語られることも少なくありません。ですがその歴史を紐解くと、美しさの中に見えてくる世界や先人の想いがありました。 今回はこうした「国立美術」(ナショナル・アート)と呼ばれる概念の持つ危うさ、また現在のヨーロッパ地域における美術史を通じた歴史教育の取り組み、そして国境を超えた „文化の間の美“ についてお話をお聞きします。 ​トムセン教授は「異文化の芸術をよりよく理解するためには、根強いナショナリズムと向き合う必要があります。アートの観点からいまいちど”国境”の役割を考えなおせば、今までの、そしてこれからの韓日関係をよりよく理解することができるでしょう」と語ります。 芸術の観点から、韓日関係の未来を一緒に考えてみませんか? 皆様のご参加をお待ちしています。 【開催日時】2021年1月29日(金) 20:00~22:00 【会場】オンライン(zoomにて行います) 【ゲスト講師】スイス・チューリッヒ大学(東アジア芸術史学科長)ハンス・ビャーネ・トムセン教授 チューリッヒ大学・東アジア芸術史学科長。京都市左京区生まれ。9歳まで日本で暮らし、デンマークと日本を行き来しながら育つ。米国・プリンストン大学で博士号(伊藤若冲研究)取得後、シカゴ大学での教職などを経て、2007年より現職。2009年以降、スイスにある美術館所蔵の日本美術工芸品を積極的に紹介するプロジェクトを続けているほか、2017年にはチューリッヒで三笠宮彬子さまを講師に迎え、日本美術に関する講演会を開く。また、スイス国立博物館で2019年に開催中された「日本のハイジ」展を中心となって企画、実現させた。これらの功績が評価され、日本政府より2019年度旭日小綬章を贈られる。 【プログラム】1、ゲスト講演(英語)ハンス・ビャーネ・トムセン教授「アートから見る次世代の日韓関係(A Bird’s Eye View of Japan-Korea Relations Through Art)」 2、質疑応答(英語&日本語&韓国語) 司会進行THE LEADS ASIA共同設立者 佐々木彩乃THE LEADS ASIAメンバー 朴珠美 【言語】英語※今回の使用言語は英語のみとなっておりますが、質疑応答の際には日本語でご質問いただくことも可能です。 【参加費】無料 【参加方法】こちらのURLよりご登録ください。 【前日までにご準備いただきたいこと】①Zoomというウェブ会議ツールを使います。初回のみインストールが必要です。初めての方は事前にお願いします。すでにお使いの方も必ず最新版にアップデートしてご参加ください。②Wifiでインターネットに接続可能なパソコン(カメラとマイクと内臓のもの、または別付)をご準備ください。 【後援】早稲田大学韓国学研究所(WIKS) 【主催・お問い合せ】THE LEADS ASIA (TLA)Email : the.leads.asia@gmail.com  예술을 둘러싼 한일관계의 조감도Continue reading “A Bird’s Eye View of Japan-Korea Relations through Art (January 29, 2021)”

THE LEADS ASIA was selected for the “Next Generation of Korean Studies Scholars” grant program

The LEADS ASIA has been selected from among a number of Japanese organizations as one of the recipients of the “Next Generation of Korean Studies Scholars” program of the Lee Heui Keon Foundation Korea-Japan Exchange Foundation for the year 2020. The grant will be received upon THE LEADS ASIA’s upcoming project, “Promoting Constructive Discussions betweenContinue reading “THE LEADS ASIA was selected for the “Next Generation of Korean Studies Scholars” grant program”

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