日中関係の「二面性」、コロナ禍で浮き彫りにーー”批判”も含む対話を、文化交流に期待

by Yasutaka Tamura
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留学は「現地に行ってなんぼ」?人的交流や異文化体験を代替できるか

「これ以上もったいないことをしたくない」。上海の大学院に在籍する早見優哉さん(23)は休学の理由をこう語った。同志社大学を卒業後、上海復旦大学の修士課程に進学。2017年に上海へ語学留学に行ったことがきっかけだったという。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で現地には行けなくなり、オンラインで授業を受ける生活が半年以上続いていたのだ。

「中国に行けないということは(影響が)大きい。留学は現地にいってなんぼやと思うんで」と語る早見さん。現地の学生との交流や、中国社会の変化を肌で感じるには現地で生活することが不可欠だと考えるためだ。今年3月から始まった新学期にも、現地に行ける目処は立たなかった。悩んだすえに、休学を決断した。

上海で語学留学時に中国五名山の一つである華山(陝西省)を訪れた早見さん=本人提供

海外への渡航が制限される中で留学を断念する学生が増加している。日本学生支援機構によると、2019年度に海外に留学した日本人学生数は全体で前年度比6.8%減となった。また主な留学先の中では、中国が同比22.5%減と最も減少した。

留学断念の理由として、現地での文化交流が留学の醍醐味の一つであることが挙げられる。海外留学支援事業を手がけるICCコンサルタンツの調査によると、”コロナ禍”における学生の留学への意欲自体はそれ以前とさほど変わらない。しかし「オンライン留学を選択する」と回答した学生は3割程度に留まっている。

また早稲田大学の鈴木規子教授の調査によると、学生たちは留学を通じて言語や知識を得るだけでなく、現地の人との交流や文化に触れることを重視しているため、オンライン留学は「正直満足に欠ける」との意見が集められた。

上海華東師範大学3年生の三田明絵さん(21)もオンライン留学で思うように交流できないもどかしさを語る。実際に現地で留学していた時は、中国人学生に勉強を教えてもらったり、サークル活動に参加したりすることで中国人学生と活発に交流をしていたが、現在は日本からオンラインで授業を受ける。

「今は直接先生と交流するようになり、学生間の交流が減った」と話す。また、在籍している動物愛護サークルの活動に参加したい気持ちはあるものの、オンラインでは実際の動物保護活動に参加できないという。

“コロナ禍”が浮き彫りにした日中関係の「二面性」

留学などの文化交流を通じて、相手国にも「息をして生活している人間」がいることを実感できる。早稲田大学でアジア研究を専門にしている中嶋聖雄教授は、特に学生レベルでの日中交流では、「”顔と顔”の交流ができるというのが民間の交流の意義でもある」と述べる。中嶋教授は、学生交流の意義を「コミュニケーションを取る上で、言葉が通じずにお互いに苦労するといったところから、相手も同じ大学生だと感じられ、お互いに悩んだり苦労したりして交流を深められる」ことだと指摘する。

言論NPOの2020年の調査によると、領土問題などをめぐる政治的な対立に次いで、中国と日本では民間レベルで信頼関係が築かれていないことが両国関係の発展を妨げているとの見方が多かった。また「中国に良くない印象を持っている」と答えた日本人は全体の90%と、2016年以来の高水準だった。反対に「日本に良い印象を持っている」と答えた中国人は45%、「良くない印象を持っている」と答えたのは53%にとどまるなど、日中間の意識の差が鮮明になった。

日本と中国世論の意識の差がより鮮明に。出典:言論NPO「第16回 日中共同世論調査 結果」

中嶋教授は「コロナ禍で日中関係の二面性が浮き彫りになった」と指摘する。パンデミック前の2019年における国別の訪日外国人旅行客数では、中国が全体の3割と最多だ。中嶋教授は、留学生として日本にやってくる中国人学生の存在についても言及し、「人の行き来がストップすることで、中国の人の日本における経済的・学術的なプレゼンスがどれだけ大きかったか、どれだけ日本が中国から刺激を受けていたか、という良い面も明らかになったと思う」と述べた。

復旦大学日本研究センター青年副研究員の王広濤氏は2月16日付けの論文で、新型コロナ拡大初期において起こった日中間の物資支援を評価し「日本政府や民間の好意が現れていた」と述べた。さらにこのような好意を基にした交流は「基盤の弱い民間の中日関係改善につながる」とも指摘した。一方で、同センターが3月9日に公表したリポートは、安倍晋三前首相の辞任や米国の対中政策の変化などが日中両国の国民感情に影響を与えたとし、「中日関係の脆い一面も明らかになった」と指摘する。

復旦大学日本研究センター副研究員の王広濤氏

中国政府の新型コロナ感染拡大初期の対応が批判されているほか、香港問題や新疆ウイグル自治区における人権問題など、2020年初頭からの1年間で中国の「ネガティブな面」が国際的に注目を集めた。中嶋教授は「”親中”や”反中”といった、昔から存在していた日本人の中国観の二面性が新型コロナをきっかけに、より複雑に交わりあうようになったのではないか」と指摘する。中嶋教授は現在の日中関係を「日中関係のポジティブな面やネガティブな面が明らかになり、一体化した状況」だと述べた。

浮き彫りになった「二面性」を踏まえたうえで、中国とどう付き合っていくのかを考えることが”コロナ禍”における両国関係の課題だと中嶋教授は指摘する。学生などの若者が、これまでの両国交流の歴史を良い意味で超えていけるのではないかと同教授は述べた。「政治や経済ではなく、映画やアニメなどの文化を入り口とした交流によって、両国の相互理解が従来とは違った形で起こるかもしれない」とした。

問われる「ヒトとヒトの繋がり」 オンライン国際交流のいま

留学以外で相手国を理解する場を提供していた学生団体の活動にも影響が及んだ。日本と中国の大学生を対象に毎年交流イベントを手がける日中学生会議は、新型コロナ感染拡大を受けて2020年のイベント開催を見送った。

同団体は1986年に設立された学生団体で、中国と日本で交互にイベントを開催してきた。およそ3週間の共同生活を通じて、歴史や教育、メディア、スポーツなど約7つのテーマについて議論し、交流を深める。しかし今年は”コロナ禍”で人の往来が制限され、オンラインでの開催も検討したものの、イベントとしてまとまらないと判断した。

過去の日中学生会議の様子(出典:第38回日中学生会議 活動報告書)

中国側の第39回実行委員長・李小萌さん(22)は、オンラインイベントをおこなう際の技術的な問題以外に世論の影響も考慮した結果、開催見送りを決断したと話す。中国の新型コロナの初期対応が国際的に批判されるなど、イベントにも影響がおよびかねないと感じるできごとが起こったからだ。

同副委員長の李冠儒さん(24)はそれでも開催を最後まで目指していたが、「やはり面と向かって交流する感覚はオンラインでは再現できない」と開催を断念。だからこそ「無理してオンラインで開催するのであれば、一年先へ見送ろうという決断に至った」と胸の内を明かす。

2020年の第39回イベントは見送りとなったが、FacebookなどのSNS上で日本や中国の文化に関する情報発信に努め、2021年の第40回開催に向けてバトンを繋いだ。元実行委員長の李さんは「面白いコンテンツを発信することでコロナ禍の不安などを和らげられたら」と述べる。

第40回実行委員は2020年11月、新メンバーで新たに発足した。8月に中国でのオフライン開催を目指すが、オンラインでの開催も視野に入れて企画が進んでいる。第40回日本側実行委員長の金田彩音さん(21)は、「今回の日中学生会議を成功させることで、新たな形で日中友好に貢献できると思う。日本と中国の様々な意見を多角的に取り入れて、一生胸に残る会議を作り上げたい」と開催への意気込みを語った。

日中学生会議と同様に日中交流を手がけるリードアジア(RLead Asia)は2020年8月22日から23日にかけてオンラインでイベントを開催した。この判断に際し実行委員内では、対面ではなく画面を介した交流に賛否両論あったという。実行委員長の劉氷森さん(22)は、これまで植え続けてきた「日中交流の種」を無駄にしたくない、と開催の理由を語る。

リードアジアは、日本と中国の大学生が共にグループディスカッションや企業訪問を行うなど、経済を軸に交流を行うプログラムだ。文化交流にビジネスの要素を組み入れたことで、日中交流の裾野を広げる狙いがある。団体名のリード(RLead)には、アジアを読み解き(Read)牽引する(Lead)学生を創出するという意味が込められている。計50人ほどの大学生が、7泊~8泊にわたる共同生活を通じて相互理解を深める。2013年に尖閣諸島(中国語名:釣魚島)を巡って日中関係が悪化した際に発足された。

実行委員長・劉さんはオンラインイベントの開催をこう振り返る。

「オンラインでの2日間の交流に対して良い評価もたくさん頂きました。一方で、オンラインでは人と人が直接関わるのではなくデバイスを介して交流するため、休憩時間などに自由に話をしたり声をかけたりするのが難しい。オフラインの方がより親しい関係を構築できると企画・運営を通して感じました」

オンラインイベントの様子。写真は実行委員=リードアジア提供

プログラムのオンライン開催企画を率いた上海華東師範大学の三田さんは、費用がかからずに手軽に交流できる点を評価した。一方で、簡単に繋がれるからこそ、「逆にオンラインでは相手のことを深く知ることが難しいのでは」と指摘した。実行委員長の劉さんも「一番の課題となるのは、オフラインと同じような強いつながりをどのように創出するかということだと思います」と述べた。一つのテーマについて議論することはできたが、周りの人に話しかけたり、雑談をしたりすることはオンラインでは難しい。参加者からは、プログラムを評価する声とともに、個人レベルでの交流があればもっと良かったという声も寄せられた。

しかし、オンライン開催になったことでプラスの面もあった。「オンラインということで、場所と時間の縛りがオフラインと比べてかなり減りました」と劉さん。従来のプログラムは東京での合宿だ。日本人参加者の半分近くは東京出身で、渡航をともなうプログラムに参加する中国側の参加者も主要都市出身が多かったという。しかしオンラインで開催したことで、両国ともに多様な地域からの参加者が集まった。この多様性を「オンラインでの一番のメリットだと感じた」と劉さんは話す。また「(イベントが)終わってもみんなが集まる場所をいつでも作れることがオンライン交流のメリット」だと劉さんは述べた。

参加者同士での雑談はオンラインでは難しい。写真はイベントを取り仕切る実行委員たち=リードアジア提供

新しい世代だからこそ、友好だけでなく”批判”も。対話ベースの日中交流へ

一部の学生の間などではオンライン・オフラインともに活発な交流が見受けられる一方で、社会全体における日中の民間交流を支える層は薄い。早稲田大学で中国教育を研究する小林敦子教授は現在の日中交流について、「民間や草の根(レベル)としては難しいところに来ている」と話す。これまでの日中友好活動を支えてきた層の高齢化が進んでいるためだ。

先の大戦をめぐる中国への贖罪の気持ちが後押しして日中交流を行なってきた世代はすでに80代。そして日中関係が比較的良好だった1980年前半に中国留学をした世代の多くは、すでに50代だ。小林教授は「若い世代が日中交流に少しでも関心を持ってもらえれば」と話す。また中国はますます発展していくだろうとも述べ、これからの世界は中国抜きに語れないとした。そうした意味でも日本と中国のあいだに「交流のパイプを作っておくことは大事だ」という。

今まで中国と日本の民間交流を推し進めてきた層が高齢化しているからこそ、これからの世代が創り上げていく新たな交流のあり方に注目が集まる。「自分の情熱をかけられるものや、好きなところから交流を始めてほしい」と早大・中嶋聖雄教授は述べる。その上で、特に民間や学生レベルでの交流では「”友好一辺倒”ではなく、批判も含む対話を重ねていくことが大切だ」と指摘した。

“多国籍化”する文化交流ーーより広い視野でお互いを見つめる

日中関係をより広い視点から捉え直すことも必要だ。中嶋教授は「文化には良い意味でボーダー(国境)がないので、文化をきっかけに二国関係を超えた(第三国も合わせた)日中関係を考えられるようになるのでは」と語る。

例えば、ベトナムの楽曲に日本のアニメキャラクターや中国のゲームキャラクターを組み合わせた二次創作動画が、YouTube上で最大1億回以上再生されたとBusiness Insiderが3月31日付けで報じたように、文化交流は「多国籍化」している。このような若者のポピュラーカルチャー(大衆文化)などの文化を中心にした交流が、アジアという更に広い関係性の中での日中交流を考えるきっかけになるのではないかと中嶋教授は指摘した。

Photo by Gracia Dharma on Unsplash

こうした文化を通じた日中交流については、上海華東師範大学の三田さんも、「(日本で)中華メイクが流行っていたり、チャイナドレスをモチーフにした服も流行っていたりするので、中国への印象改善に繋がってほしい」とした。また日中学生会議元副委員長の李さんは、他の日中交流会を通じて知り合った日本人と今でもよく日本式麻雀を打つという。「純粋な(相手国への)興味から交流が起こるといいと思う」と話す。その上で日中交流のあり方については「歴史問題を必ず語らなければいけない、などと大きな問題として捉える必要はないと思う」とし、「色んな友達を作りたい」と日中の学生交流活動に携わる思いを語った。

リードアジアの劉さんは、より多くの日本人や中国人がお互いへのステレオタイプや偏見を除き、「お互いを個人として尊重した上で、本当の交流ができるような繋がりができたらいい」と話す。

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「友好」をスローガンにお互いをただ褒め合ったり、逆に政治的な思惑やステレオタイプに基づいた非建設的な批判を繰り返したりするだけでは、未来の世代につながる関係を築くことはできないだろう。

アニメやファッションなどの文化をきっかけに相手国に興味を持つケースが若い世代で目立つように、多様化する「交流の入り口」が相互理解を深める新たな可能性を秘めていると、筆者は取材を通じて改めて実感した。

先人が築いてきた関係や新しい世代が築く関係を通じて、「友人」として偏見なく正面から向き合えるようになればと筆者は願う。渡航制限などが解除され、自由に往来できるようになった暁には、ぜひ現地に足を運んでみて欲しい。

Cover design by Kaori Kohyama

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Published by Yasutaka Tamura

田村康剛 | Yasutaka Tamura 日本で生まれ育ち、中学卒業後上海留学開始。復旦大学ジャーナリズム学部卒業。現在は清華大学Global Business Journalism program在籍。Bloombergでインターン経験あり。関心領域は、ジャーナリズムや中国に関連するもの。

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