「Conversation of Tangible Memories」シリーズの第一弾として、早稲田大学韓国学研究所の金敬黙教授をゲスト講師としてお招きし「When Urban Communication Meets Transnational Asia」をTHE LEADS ASIAのコアメンバーで開催しました。

このシリーズの目的は、現代社会に存在する”モノ”を起点として継承されている想いや歴史を読みとき、建設的な対話に繋げるというものです。
2020年は米国やヨーロッパでBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動が広がるにつれて黒人奴隷制度を支えた歴史的人物の像が撤去され、商業映画のなかで人種差別的だとされる表現が改めて批判されるなど、表象の問題が明るみに出ました。また、アジアの文脈では日韓間でも各地の慰安婦像の設置を巡り活発な議論が交わされました。
私たちはこれから一体どの歴史を後世に伝え、そして何を見直していくべきなのか。後世を見据え、切り捨てられるべき歴史とは何なのか。パンデミックの拡大がオンライン化を推し進める中で、”モノ”による表現との付き合い方を世界中の人々が考えさせられる一年となりました。

今回は12月4日(金)に行われる一般向けの第二回以降のワークショプ「Passing on History」を見据え、国籍も育った場所も母国語も異なるTHE LEADS ASIAメンバーの一人一人がまずどのようにこのテーマを理解し、対話に繋げていけるのかを話し合いました。
「When Urban Communication Meets Transnational Asia」
レクチャーでまず話されたのは、「記憶」の単一的な表象(representation)が持ちうる複合的な意味合いや、またそれらを公共の場(Public Sphere)で行う複雑さについて。
例えば戦争の文脈では、経験に基づく記憶を有する人が減っていく中で「移りゆく記憶」とどう向き合うか。特定の記憶を形に留めておく意味合いとは?それは先人の知恵や苦悩を受け継ぐためなのか、それともナショナリズムを強化するためなのか。
またその表現形式も、商業映画やノンフィクション作品などを通じた「感情の再生産」にとどまるのか、調査報道などを通じた史実の追求を目的とするのか。様々な例が考えられます。
また、パブリックスフィア(公共空間)が対話の場に使用されている例としてソウル市内の「スクエア・ポリティクス」の様子が紹介されました。歴史上英雄とされる人物の写真が人通りの多い場所に掲げられている様子や、政治的メッセージが飛び交う場所で世代間対話が生まれている様子、そしてナショナリズムを煽動するようなグッズの数々。
そのほかにも、地域を横断して記憶や文化が混ざり合う時に起こる現象「Acculturation」という文化人類学の概念も紹介され、グローバル化の進む中では避けられない越境的な人と交流の中で変容し、新たな形として受け継がれる記憶とどう向き合うのかが、オープンクエスチョンとして提示されました。
ディスカッション:記憶の主体と向き合う
レクチャー後、TLAのメンバー同士で行われたディスカッションでは主に以下の点について対話が行われました。
・韓国のパブリックスフィアにおける政治的デモや記憶の継承について、若い世代の捉え方
・もしそのメモリアルが表象する史実への知識が希薄な場合、生まれる対話は有益であると言えるのか?
・オープンクエスチョン「”平和”を”戦争”の文字抜きで語ることは可能か」に対する見解
中でも「現存している像・有形物・記念碑などは誰が責任を持って設立し、維持するべきなのか?政府や市民はこの中でどのように関わりあうべきなのか?」というメンバーからの質問には、活発な議論が交わされました。
これに対し、美術品としての私有管理とパブリックスフィアでの共有管理で受け継がれていく集合的な記憶(Collective Memories)にはどのような違いがありえるのか、また公共管理の場合に資金を取り仕切る上で第三者的な組織が果たし得る役割について話し合いがされました。
その中で3回目に再建された際に費用が住民の寄付によってまかなわれたものの、現在の管理は市によってされた大阪城の例が紹介され、長期的に有形物を管理していくことに対する公共性の限界についても言及されました。
また「私有管理のものならどのような表現も許される」という風潮にも疑問が呈され、語り継ぐ歴史の主体性のバランスを見つけるためには対話を重ねていく事が不可欠であると結論づけられました。
また、
・パブリックスフィアにおける一番影響力のある”モノ”としての広告の役割
・自分がパブリックスフィアに参加しているという自覚の欠如なしに集団で作られる「集合的記憶」は対話の結果として生まれたものだと言えるか?
など興味深い議論も共有され、アジア以外の記憶継承についても専門家から話をきく次回以降のワークショップにおいて、どのように私たちがアジア地域の文脈で考え、対話を構築していくのか、様々なアイデアが生まれました。

ミュンヘン・ナチ・ドキュメントセンター館長のMirijam Zadoff博士をゲストレクチャーとしてお招きし、NPO法人ホロコースト教育資料センター東京・ゲーテインスティチュート東京と12月4日に共催する公開ワークショプ「21世紀における歴史の継承と挑戦」は、こちらからお申し込みいただけます。
今回のワークショップ開催にあたり多大なるサポートと素晴らしいレクチャーをいただきました早稲田大学韓国学研究所の金敬黙教授、そして様々な観点を提供し議論を盛り上げてくださったYale-NUSのLee Chee Keng教授に心より御礼申し上げます。
THE LEADS ASIA
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